遠藤周作 - 侍

王の中の王。それは誰よりも惨めだった男。

侍 (新潮文庫)

侍 (新潮文庫)

  • 江戸時代初期の史実を基にしたフィクション
  • ノベスパニア(メキシコ)経由でローマまで到達した使節団の物語
  • 運命に抗う者。身を委ねる者。

カトリックの神父ベラスコと、彼に連れられて太平洋を渡った長谷倉、田中、西、松木と、その従者たち。犠牲を払いながらアカプルコまで到達した後、使節団に与えられた使命に疑問を持つ松木は日本へと戻り、残りの三人はそのままベラスコに従ってスペイン、果てはローマまで訪問する長い旅に出る。しかしその先に待ち受けていたのは、藩・幕府とベラスコ双方の思惑によって翻弄される人生だった。
本編を通して感じるのは、拡大したキリスト教に対する著者の懐疑的な視点である。お役目の為、不本意ながらも洗礼を受けた長谷倉の思いと、同じく強制的にキリスト教徒にされた著者が重なっているように感じた。さらにそこから、自分のそばにただ存在するだけのものとしてのキリストに心の救いを求めたのも、きっと自分が同じような過程を経て信仰の道に入ったことを背景にしているのではなかろうかと想像した。
なぜ役目を果たせなかった日本人が自害するのかわからないというローマの枢機卿と、殺されるとわかっていて日本に戻ってきたベラスコに合点がいかぬと言う役人。だが、今でこそ酷い話だと感じこそすれ、当時の彼らにとってはそれが当たり前の話だったのだろう。自分の生きてきた環境に我々の思考は左右され、その檻からは逃れ難い。
久しぶりの遠藤周作だったが、「沈黙」を読んだ後と同じような寂寥感を感じる作品だった。
以下、他の方の書評より。

2005-12-05
ただの冒険物語じゃなくて、
キリスト教の問題点や、信仰の在り方についてもきちんと言及している。
それも物語中にさり気なく。だけど力強く。

2005-01-29
多くの人間は、自分以外のものに依り縋らなければ生きていけないのだ。

2004-10-24
ひらたく言えば、おえらい人が何を言おうと結局は自分次第、ということ。